
「日本は無宗教の国、じゃないの!?」
── ギュレチ・セリム・ユジェル氏
セリム先生 アッサラームアライクム(アラビア語で、あなたの上に平安がありますように、の意)。
── ワアライクムッサラーム(あなたの上にも、の意)。サラームが「イスラーム」の語源だとは、先日、セリム先生からうかがうまで知りませんでした。
セリム先生 このサラーム(平和、平安)の挨拶は、万国共通の人の心を開く鍵、といつも申しますが、もう少し踏み込んで説明すると、この挨拶を交わすことで、ああ、この人は私を知っているんだ、私がどういう種類の人間であるか、どういう態度を期待する人間であるか、知っている人なんだな、という安心感を抱くんですね。一方、相手に対しても、あなたがどういう扱いを重んじる人であるか、私は分かっていますよ、というサインを送ることができる。そうやって互いにメッセージを発信し合うのです。
── なるほど。その意味でも、異文化間コミュニケーションに欠かせないのですね。
セリム先生 特に未知の人と出合う場合には、大切です。
── 大阪の空港に着いて、まさに日本の土を初めて踏んだときの、日本人とのファースト・コンタクトはいかがでしたか?
セリム先生 非常にショッキングでした(笑)。いい意味でのショックでしたが・・・。
── 日本についての予備知識は、あまりお持ちではなかった?
セリム先生 奨学生試験に受かって、さあ、これから日本に行くんだ、と情報収集を始めたときのイメージは、ちょんまげを結ったお侍さんとか、コンピュータだけ(笑)。日本を紹介する本を買ってきても、お寺とか、お茶とか、着物のことばかりで、日常生活のことはそれほど書いてない。文化についても知らない、食べ物についても知らない。お母さんが、どこから聞いてきたのか、日本の人たちは箸という、細い棒を使ってごはんを食べるらしい。あなたはそんなものを使えないからどうするの、と、スーツケースにフォークとスプーンを入れてくれたくらいです(笑)。
── そうして、空港ロビーで、留学生を受け入れる関係機関の人と対面なさった(笑)。
セリム先生 係の人が二人、ニコニコしながら私の方に近づいて来まして、「Oh、ウェルカム!」。サラームの挨拶こそなかったけれど、ニコニコしているので、ひと安心です(笑)。私もニコニコしました。するといきなり、どうぞ、と封筒を手渡されまして。びっくりして、何だろうと開けてみると、中に2万5千円入っていました。それが2万5千円ということも、分からないんだけれども(笑)、ともかくお金が入っていた。手渡してくれた人は、日本で困らないように生活してほしいと思い、このお金を用意しました、とまたニコニコ。イスラームでは、見知らぬ人に笑顔を見せるのは、何よりも大切な喜捨です。
── 笑顔も喜捨!
セリム先生 それに、おこづかいのことまで気遣ってくれている。非常にイスラーム的ですね。困っている人や、旅路にある人を見かけたら、食事を与えたり、金銭的にも助けてあげなければいけない。それが聖典クルアーンの教えであり、イスラーム教徒の義務である、とされています。日本は無宗教の国だと思っていたので、そのような待遇を受けて、本当にびっくりしました。無宗教の国というのは誤解で、日本人の繊細な宗教観については、のちのち理解して行くことになるのですが、ともかくこれが、私と日本との最初の出合いでした。(つづく)
4月8日(月)掲載